仮想通貨取引よりもお得なステーキングの基礎

ステーキングはマイニングよりも優れているのか?―Stakingrewardsリサーチレポート【前編】

新しく公開されたパブリックブロックチェーンの多くはProof of Stake(PoS)ベースであり、イーサリアムも今後のメジャーアップグレードでPoSに移行します。
近年PoSは勢いを増しており、ある時点でProof of Work(PoW)とPoSの間でシェアのフリッピング(逆転)が起きるという意見も挙がっています。

分析機関のStakingrewards はPoWとPoSの特性について『トレンド、コミュニティの相互作用、集中化、コスト、インセンティブ、スケーラビリティ、セキュリティと攻撃要素、ガバナンス、資金調達、環境問題』など10項目に渡って分析しました。

この記事では、レポートの前半パートをご紹介します。

1. PoSの定義

Proof of Work(PoW)とProof of Stake(PoS)は、分散型ネットワークのコンセンサスアルゴリズムのカテゴリーです。どちらもネットワークにリソースを提供するコンセンサスキーパーにとって、「新規発行コイン」が経済的インセンティブとして機能します。

暗号アルゴリズムを解決するProof of Workは、確率的に最も高い計算能力を有する参加者が最も多くの報酬を獲得します。Proof of Stakeは、一般的により多くの経済的価値をリスクに晒す(ロックアップする)者が多くの報酬を得ます。

最大のトークン保有者が独占するのを避ける対策を設定しているネットワークもあり、PoSはByzantine Agreement、Tendermint、Dfinity、Casper、Ouroboros、Stellar Consensusなど、さまざまなコンセプトの集合体と言えます。

2. トレンド

時価総額による上位30の仮想通貨のうち13種類(イオス、ステラ、トロン、ダッシュネオ、バイナンスコイン、オントロジー、テゾス、ネム、ヴィチェーン、ウェイブス、クアンタム、ディークレド、リスク)は、すでにPoSを利用しています。さらにイーサリアム、カルダノ、オミセゴーの3つは、今後PoSに移行します。

データによると市場の半分以上がPoSを使用しており、ほぼすべてのレイヤー2ソリューションがステーキングメカニズムを採用しています。

ステーキング最新データ

  • PoSコイン合計時価総額:87億ドル
  • ステーキングでロックされた合計価値:56億ドル
  • PoSドミナンス:5.1%
  • PoSドミナンス(BTC・ETHなし):14%

データ元: Stakingrewards.com

これらのデータから多くの関係者は、PoSチェーンがさらに拡大すると見込んでいます。

3. スケーラビリティ

ブロックチェーンネットワークのトランザクション処理能力は、平均ブロック生成時間とブロックサイズ制限によって算出されます。
PoWであるビットコインのブロック時間は10分ですが、イーサリアムは15秒と短縮されており、スループットはわずかに高まっています。

PoSは平均的にブロックタイムがはるかに短く、トランザクションスループットは非常に高い傾向があります。これは、バリデーター、ブロックプロデューサーなどのコンセンサスキーパーの数がある程度制限されているためです。
Source: https://blocktivity.info/

代表的なPoSチェーンであるテゾス(XTZ)は、1秒あたり40トランザクション(TPS)を処理します。

イオス(EOS)やトロン(TRX)などのdPOSは1000 TPS以上を処理します。TPSやファイナリティはブロックチェーンのビジネス利用の文脈で重要な要素です。主要なPoSチェーンはより高速で、場合によってはほぼ瞬時のファイナリティを提供します。

4. ネットワークセキュリティ

ビットコインのProof of Work(PoW)はすでに10年以上の歴史があり、多くの攻撃を経験する中で信頼性と安全性が実証されています。PoWは外部リソースのコミットメントを必要とするシステムであり、カルテルを形成するなどハッシュパワーを購入することで51%攻撃を引き起こす可能性があります。ビットコインのそのよ

うなハッシュパワー購入はほぼ不可能ですが、バージやイーサリアムクラシックなど小規模なPoWチェーンでは現実的なコスト水準となります。

PoSの重要なセキュリティリスクには、バリデーターの集中化によってネットワークが脆弱になる可能性があります。大企業は票を購入し、カルテルを形成して攻撃を成功させるだけのリソースを持っている場合があります。

一部のPoSチェーンはそうした攻撃要素に対処しており、EOSのバリデーターはEOS憲法で有権者との報酬のシェアを禁じています。それでも、歴史の浅いPoSチェーンが十分にストレステストされていないことは明らかです。

その他にもPoSには以下のような攻撃ベクトルが考えられます。

◆長距離攻撃(ロングレンジアタック)

長距離攻撃は、敵がジェネシスブロックから開始してブロックチェーン上に支流を作成し、メインチェーンを追い抜くシナリオです。このブランチには、異なるトランザクションとブロックが含まれる場合があるため『履歴改訂攻撃』とも呼ばれます。

◆コストゼロ・ステーク攻撃(Nothing at Stake Attack)

ブロックジェネレーター/バリデーターが複数のブロックチェーン履歴に投票することで、コンセンサスの達成を妨げる可能性があります。
PoWシステムとは異なり、複数のチェーンで作業するコストがほとんどないため可能となります。

◆51%攻撃

一部のPoSネットワークでは、51%攻撃に必要なステーク量は33%とも見積もられています。委任や投票において、攻撃者は自分で出資する必要が無くサードパーティのネットワークサポートを利用できるため、投票の購入や贈収賄によって遂行される可能性があります。
攻撃者は、総供給量の33%ではなくアクティブステークの33%を必要とする点が肝心です。

◆低ステーク率

51%の攻撃者はアクティブステークの33%を必要とするため、仮にステーキング率が25%と低いネットワークの場合、51%攻撃に必要な量は総供給量の1/12だけで足りてしまいます(⅓* 25%)。

◆秘密鍵攻撃

ステーキングにおいて、秘密鍵は常にオンラインにあります。ステークの所有権を証明してトランザクションに署名するためネットワークに常時接続されるため、秘密鍵は攻撃に対して脆弱になります。
鍵を制御できた場合、検証や攻撃を実行する権利が引渡されます。

5. 集中化/分散化

採掘マシンを必要とするPoWとは異なり、PoSのコンセンサスメカニズムはネイティブトークンに基づきます。PoSトークンは取引所で自由に入手できるため、ステーキングの参入障壁は低くなっています。

ネットワークを安定化して報酬を得るブロックチェーンノードは、参加するためにリソースをセットアップする必要があります。しかし、個人投資家でも投票によってコンセンサスに参加できるステークデリゲーション(委任)のようなメカニズムもあり、PoSの分散化に役立っています。

StakingrewardsによるとPoWではリソースを持つものがさらにリッチになる「べき法」がより顕著に働きます。
大規模なマイナーには規模の経済がありますが、PoSステイカーには規模の経済はなく、投資リターンの潜在性はライナーとなっています。

Source: 3IQ Research Group

6.ステーキングにかかる費用

ステーキングを始めるうえで、コストに関する次の3つの側面を考慮する必要があります。

ブロックチェーン取引費用

パブリックブロックチェーンのデータ保存は非常に高価です。

各バイトはネットワーク内のすべてのノードに渡され、すべてのノードで保存されます。
billfodlによると、ビットコインのトランザクションコストは約0.41ドルで、イーサリアムのトランザクションコストは約0.1ドルです。どちらもコインの価格によって変わります。強気市場のピーク時のある時点で、取引コストはビットコインとイーサリアムでそれぞれ54.9ドルと5.5ドルに達しました。

一方、PoSのコストははるかに低く、テゾスの取引費用は約0.01ドルです。

ブロックチェーンを維持するために必要な資本

Proof of Work(PoW)は高価なハードウェアと大量の電力を必要としますが、Proof of Stake(PoS)のバリデーターのコストは単純で堅牢で安全なハードウェアインフラストラクチャである上に、電気のコストはわずかです。

ビットコインネットワークの保護コストは大まかに述べると以下の通りです。

  • ハードウェア:年間約20億ドル(平均寿命18か月)
  • 電気代:年間約40億ドル(kwh:平均0.08ドル)

また、PoWの維持には毎年合計で約6.5%のネットワークバリューが必要になります。
一方PoSに必要な資本はネットワークバリューのわずか約0.1%でことが足ります。

バリデーター/マイナーを補償するインフレコスト

PoSネットワークの平均インフレ率は6%ですが、PoWネットワークの平均インフレ率は4%です。ブロックチェーンのインセンティブ設計は、時間の経過とともにインフレを低下させる傾向があり、PoSのインフレ率も時間とともに低下する可能性があります。

ビットコインなどのPoW通貨では、インフレ率がマイニングに関与しない全ての投資家の資産価値を希釈します。一方、PoS通貨のステーキング参加者は、ロックアップに対するリターンとして報酬を受け取り、インフレ率さえも利益に転嫁できます。

あるPoSネットワークがステーキング率50%でインフレ率6%の場合、ステイカーは実質的にネットワーク利回りでプラス6%の余剰を受け取れます。
一方PoWでは、投資家は実質的に約4%のマイナスの希釈度を持ちます。

「ステーキングはマイニングよりも優れているのか?―Stakingrewardsリサーチレポート」の前半パートは以上となります。後半はネットワークガバナンス、資金調達、環境問題について比較します。