仮想通貨取引よりもお得なステーキングの基礎

【取引所vsステーキング事業者】取引所の手数料がゼロだとしても専門事業者の方が報酬率は大きいーStakefishインタビュー

2019年12月4日に仮想通貨取引所バイナンスは、手数料無料の「テゾスのステーキングサービス」を開始しました。他の取引所やカストディアンなどもテゾスのステーキングに参入しているなかで、このビジネスは手数料競争に突入している様です。

データサイトStakingRewardsのインタビューで韓国を本拠とするステーキング事業者stakefishのWang Chun CEOは
「取引所による手数料無料のステーキングによって、独立したステーキング事業者が淘汰されるとは考えていない」と語っています。

ステーキングサービスプロバイダーの役割

stakefishは2020年2月末時点に合計で約6,500万ドル相当の資産をステークしている主要なステーキングサービスプロバイダーです。コスモス、テゾス、アイリス、クサマ、ルーム、TheOAN、カバのバリデーターを実行しており、チェーンリンク、アルゴランド、ストージ、ボスをデリゲート(委任)しています。

ステーキングノードが高いリターンを得る手段は、多くの投票(委任)を獲得することです。そのために事業者はステーキング手数料を引き下げ、エコシステムで価格戦争が巻き起こっています。

しかし、多くのパブリックチェーンにおいてステーキングは単なる預金活動ではなく、コミュニティガバナンスが必要となるため、手数料が低いノードが必ずしも最大の投票数を集めている訳ではありません。

そのため、stakefishはネットワークのエコシステム拡大にも取り組んでおり、コミュニティメンバーとサポートするプロジェクトの両方に付加価値サービスを提供しています。

実際にstakefishはテゾスやコスモスのデリゲーター(委任者)に役立つツールを作成しました。バリデーターリーダーボード、計算機、ステーキング報酬ダッシュボードが含まれます。また、プロジェクトチームとともに、マーケティング施策やイベントを共催しています。プレゼンテーション動画を作成してコインのステーク方法を説明するなど、教育分野にも力を入れています。

技術文書やエコノミクス設計に関するフィードバックを提供することで、サポートするプロジェクトに直接貢献する場合もあります。

仮想通貨取引所、カストディアンなどとの競争

昨今、バイナンスやOKExなどの大手仮想通貨取引所がステーキングサービスを提供するケースが増えています。ステーキング専門事業者に影響はないのでしょうか?

stakefishは「各事業者による参入は善であり、手数料は事業者次第である」と認めています。
取引所、カストディアン、ファンドがエンドユーザーにステーキングへの参加を奨励することで、最終的に「Proof of Stakeネットワークのセキュリティが向上する」と考えているからです。

しかし、stakefishは「取引所によって独立したバリデーターがステーキング市場から排除されることはない」として、2つの根拠を指摘しました。第一に「Not your keys, not your coins(秘密鍵を持たなければ、あなたのコインではない)」というコンセプトです。取引所のステーキング手数料が無料だからといって、コインの所有権を放棄する理由にはならないという考え方があります。

第二に取引所が手数料ゼロだとしても常に最高のステーキング報酬率が提供されるとは限らないことです。取引所はユーザーの出金要求に日々応じており、セキュリティ上の理由からコールドストレージにコインを保管する必要もあります。「取引所が定常的にステークできる数量は限定されるため、全体として獲得できるステーク報酬も目減りする」というのがstakefishの主張の要点です。

Proof of StakeとProof of Workの違い

stakefishによると、Proof of StakeとProof of Workの重要な違いは、ネットワークセキュリティへの参入障壁にあります。

Proof of Workマイニングは工業化されており、ASICハードウェアを調達し、安価な電力を確保しなければなりません。一般の人々が自宅で採掘することは事実上不可能です。

一方、Proof of Stakeは誰でもステーキングに参加できます。
PoSコイン保有者は通常、バリデーターを介してネットワークに参加する必要がありますが、こうしたサービスの手数料は非常に低い傾向があります。

また、stakefishによるとProof of Workのプロジェクトは51%攻撃のターゲットとなりやすいという課題があります。これはマイニングアルゴリズム(SHA-256等)が別のネットワークでも使用されている場合に特に起こりやすくなります。

その点Prood of Stakeネットワークは、プロジェクトによる「トークン・ディストリビューション」と「ステーキング・エコノミクス」が十分に考慮されている限り、バリデーターによる攻撃を受けにくい特性があります。

このような背景からstakefishは近年PoSを採用する新規プロジェクトが増えてると述べています。

ステーキングネットワークの分散性ステーキングネットワークの分散性

ステーキングエコシステムの分散性について語る際に、ネットワーク毎に分散性の定義と達成目標が異なる点に留意する必要があります。その上でstakefishは業界内で普及しつつあるプロトコル設計の1つとして「Proportional Slashing(比例性スラッシュ)」を紹介しました。

Proportional Slashingは、頻繁にオフラインになったノードに対してより多くのペナルティ(スラッシュ)を課すコンセプトです。スラッシュを受けると、ノードのステーク分が削減されます。この施策はステーキングネットワークの分散性を達成する上で3つの利点があります。

  1. ノードはスラッシュの深刻化をヘッジするためにステークコインの多様化を考慮するよう促される
  2. バリデーターは同じ条件で複数のノードの設置を検討
  3. バリデーターは主要なクラウドサービスプロバイダーを多様化し、AWSやGoogle Cloudのシャットダウンによる影響を最小限に抑えようとする

以上の3点からノードの増設、多様化が促進されます。

ステーキングの将来

現在最も速いペースで開発されているDeFi(分散型金融)は、ステーキングの資本効率と密接に結びついています。将来的にステーキングのロック期間を軽減するデリバティブや、スラッシュのリスクを緩和する保険、ステーキング報酬率を固定するスワップが台頭する可能性があります。

これらはほんの一例ですが、stakefishは「Defiとステーキングの相乗効果」が生まれると期待しています。多くのDeFiプロジェクトが現在イーサリアムに存在しているため、「Ethereum 2.0」のローンチとステーキング報酬が始まるとDeFiの進化も加速すると考えられます。

Ethereum 2.0のほかに、stakefishは2020年中のローンチを予定している注目のプロジェクトとして、カルダノ・ポルカドット・ソラナ・ニア・セロ・エッジウェア・マティック・ハーモニー・エルロンドなど16種類を挙げました。特に「プロジェクト立ち上げにおける資金調達戦略が、プロトコルの長期的な生存戦略を左右する」とstakefishは指摘しています。

参考記事

参考 Interview with stakefishStaking Rewards